約 3,520,821 件
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/250.html
この神殿で修行する者は以下を読むこと: 聖蚕会は古代から続く高貴な教団である。我々が育み賛美するのは、聖蚕の形をとって現れる、敬愛する祖先の魂である。それぞれの蚕は祖先の魂のフィロンを持っている。フィロンとは、大雑把に訳せば「平和を求める心」となり、それは歌われることで聖蚕が作る繭の中に込められるのである。その繭から絹糸を紡ぎ、布を織り、正しい祖先へと導く系譜を刺しゅうすれば、素晴らしい力を持った服ができあがる。 教団の道士は予知の能力を持つ。この祖先の知恵は、未来を現在に歌い表すことができるのである。そのため、我々の教団はエルダースクロールの理解という恩恵にあずかることができるが、それは我々の教団のみに許された特権なのである。これらの預言書はデイドラ、エイドラ両方の神々をも超越している。この現実を織りなす繊維の隙間を覗き込むことは代償を伴う。エルダースクロールは、読み進めるにつれて難解さを増すという性質を持っている。読んだ代償として視力を失う期間もまた、読むほどに長くなるのである。そして、最後まで読み進めば予言の内容の真髄までをほぼ知ることができるが、その者は永遠に視力を失いこの世の光に別れを告げねばならない。そうなっては予言を読むこともかなわない。 修道院は、我々の教団のそういった高位の者たちが住み、他の者たちが彼らに仕える場所である。彼らは世俗を離れ、敬愛する聖蚕たちと共に生きている。彼らのいる地下は聖蚕にとって住みやすい場所なのである。彼らはか弱い蚕たちを育み、歌いかける。また、絹糸をとり、紡ぎ、布を織り、繭を作った祖先の系譜と歴史を刺しゅうする。これが、彼らの新しい生活である。 彼らが聖蚕の世話をしているあいだ、我々が彼ら盲目の修道士たちの世話をする。彼らが闇の中で働くあいだ、我々は光のもとで働くのである。彼らの求める食べ物と水を提供する。彼らの求める道具や家具を提供する。彼らの求める秘密と匿名性を提供する。そして、彼らの労働の成果を売りにゆく者を提供する。 また、同時に護衛も提供している。何世代も前に、ガドランが我々の神殿を訪れた。予言を読んで盲目になったばかりの彼女は、我々に教えをもたらした。祖先は修道士たちが自らを守る必要性を予見したのである。修道士たちは今でもガドランの教えどおり鍛錬を怠らない。彼らは剣ではない剣、斧ではない斧の達人である。 修行者として、あなたはガドランの教えを学ぶであろう。拳を平和的に使う方法も学ぶことになる。盲目の修道士たちに仕えることも学ぶ。提供することを学ぶ。そしてやがて、聖蚕の平和と英知を身に付けるであろう。 白1 盗賊ギルド関連 神話・宗教
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/31.html
大いなる天空 フォルク 著 タムリエルの天空は13の星座に分かれている。そのうちの3つが重要な星座であり、それらはガーディアンとして知られている。これらは、ウォリアーの星座、魔術師の星座、盗賊の星座である。これらのガーディアンは、それぞれが持つ、3つのチャージを13番目の星座である大蛇の星座から守っている。 1つの星座の近くに太陽が昇ると、その星座の季節になる。それぞれの星座の季節は約1ヶ月である。大蛇の星座は、他の星座を脅かしつつ天空を転々とするので季節はない。 ウォリアー ウォリアーの星座は第1のガーディアン座であり、彼のチャージが季節に入っている間、それらを守る。ウォリアーの星座自身の季節は、収穫のために彼の腕力が必要とされる収穫の月である。彼のチャージは淑女の星座、駿馬の星座、大公の星座である。ウォリアーの星座の下に生まれた人々は、すべての武器に精通しているが短気な傾向にある。 魔術師 魔術師の星座はガーディアン座であり、彼の季節は初めて人々にマジカが使われた恵雨の月である。彼のチャージは見習いの星座、精霊の星座、儀式の星座である。魔術師の星座の下に生まれた人々は、より多くのマジカと様々な魔術を操る素質を持っているが、しばしばごう慢で、ぼんやりとしていることがある。 盗賊 盗賊の星座は最後のガーディアン座である。彼女の季節は最も暗い、星霜の月である。彼女のチャージは恋人の星座、影の星座、塔の星座である。盗賊の星座の下に生まれた人々は概して盗賊ではないが、他より賭けに出る場合が多く、害を及ぼすことは稀である。また一方、いつかは運も尽きてしまうため、彼らが他の星座の下に生まれた人々より長生きすることは稀である。 大蛇 大蛇の星座は天空を転々とするため季節を持たないが、その動向はあるていど予測することができる。大蛇の星座の下に生まれた人々に共通する特徴はない。この星座の下に生まれた人々は最も祝福されていると同時に最も呪われている。 淑女 淑女の星座はウォリアーのチャージの1つであり、彼女の季節は薪木の月である。淑女の星座の下に生まれた人々は優しく、寛容である。 駿馬 駿馬の星座はウォリアーのチャージの1つであり、彼女の季節は真央の月である。駿馬の星座の下に生まれた人々はせっかちで、常に場所から場所へと移動している。 大公 大公の星座の季節は蒔種の月であり、彼はタムリエル全土を種まき中に監視する。大公の星座の下に生まれた人々は、他の星座の下に生まれた人々よりもたくましく、健康である。 見習い 見習いの星座の季節は南中の月である。この星座の下に生まれた人々はすべての魔法に対して特別な親近感を持っているが、より魔法の影響を受けやすくもある。 精霊 精霊の星座(しばしばゴーレムとも呼ばれる)は魔術師の星座の1つである。それの季節は黄昏の月である。この星座の下に生まれた人々は生まれつきの妖術師であり、大量のマジカを保有するが、自身のマジカを作り出すことはできない。 儀式 儀式の星座は魔術師の星座の1つであり、その季節は暁星の月である。この星座の下に生まれた人々は、神々や月の特徴によって様々な特殊能力を持っている。 恋人 恋人の星座は盗賊の星座のチャージの1つであり、彼女の季節は薄明の月である。恋人の星座の下に生まれた人々は優雅で、情熱的である。 影 影の星座の季節は栽培の月である。影の星座は、彼女の星座の下に生まれた人々に、その身を影の中に隠す特殊能力を与える。 塔 塔の星座は盗賊のチャージの1つであり、その季節は降霜の月である。塔の星座の下に生まれた人々には金鉱探しの才覚があり、様々な錠を開錠できる。 紫1 自然・天文・地学
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/162.html
アルゴニアンの侍女 第4幕、第3シーン、続き リフト・ハー・テイル: とんでもありません、旦那様! ただお部屋の掃除に来ただけです。 クランティアス・コルトー: お嬢ちゃんはそれだけのために来たのかい? 私の部屋へ? リフト・ハー・テイル: なんの事だかわかりません、ご主人様。私はただの哀れなアルゴニアンの侍女です。 クランティアス・コルトー: そうだな、おチビちゃん。たくましい足に整ったシッポ、いい侍女だ。 リフト・ハー・テイル: 恥ずかしいです、旦那様! クランティアス・コルトー: 恐れる事はない。私と居れば安全だ。 リフト・ハー・テイル: 旦那様、お部屋のお掃除を済ませなければなりません。さもなければ奥様に叱られてしまいます! クランティアス・コルトー: 掃除だと?それではこれを掃除してもらおうか。ほら、俺の槍を磨け。 リフト・ハー・テイル: とても大き過ぎます! 一晩中、掛かるかもしれません! クランティアス・コルトー: 愛しい子よ、時間はたっぷりとあるぞ。たっぷりとな。 第4幕、第3シーン、完 物語(戯曲) 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/109.html
アダバル・ア 編者注:アダバル・アとは、奴隷の女王アレッシアの夫であったモーリアウスの物語であると考えられている。このことについては歴史学的に証明することは難しいが、アダバル・アが第一紀から伝わる最古の文書のひとつであることは間違いない。 ペリナルの死 そして、血の海と化した白金の塔の玉座の間で、ペリナルの切り落とされた首は翼のある半神の雄牛にしてアレ=エシュの想い人、モーリアウスに向かってこう語った。「我らの敵が私を殺し、この体を引き裂いて別々の場所に隠したのだ。神々の意思をあざ笑いながら、あのアイレイド達は私を8つに引き裂いた。彼らはその数字に取り付かれているからだ」 モーリアウスは困惑し、鼻輪のついた鼻を鳴らして言った。「ホワイトストレイク、あなたの戦いぶりは彼女の想像を超えていた。だが、俺は思慮のない雄牛だ。これからすべての捕虜をこの角で突く。もし、あなたがやつらを生かしたままにしておくのなら。あなたは血まみれの栄光そのものだった、叔父よ、あなたは必ず帰ってくるだろう。今度は狐か光となって。シロドは我々のものだ」 そして、ペリナルは最期にこう語った。「気をつけろ、モーリアウス。気をつけるんだ! こうして死にゆく私には感じられるのだ、敵はまだ生きている。それを知りながら死んでゆくのは辛いことだ。勝利を信じたまま死ねればよかったのだが。おそらくだが、彼は再び現れるだろう。油断するんじゃないぞ! 私はもはや、人々をウマリルの復讐から守ってはやれないのだ」 アレッシアの青春時代もしくは奴隷時代 ペリフの出身部族はわかっていないが、彼女はサルド(サルダヴァー・リードとも呼ばれる)で育った。この地には、アイレイドがニベン中の数々の部族から人間を集めて来ていたのである。それらの部族とは、コスリ、ネード、アル・ゲマ、クリーズ族(彼らは後に北方から連れてこられたことが明らかになった)、ケプチュ、ギー族(花の王ニリチが虫の神である??にいけにえを捧げたことで滅ぼされた)、アル・ハレッド、ケト族、その他であった。しかし、この地はシロドであり、支配者エルフたちの領土の中心であり、人間たちには何の自由も与えられていなかった。家族を持つことや、公に名前を持つことすら禁じられていた。侵略者の支配者たちは、彼らに名前をつける必要などみじんも感じていなかったのである。 人間たちは、岩を運んだり、用水路を作ったり、神殿や道路を整備したりといった労働を強制された。また、人間たちはアイレイドの拷問芸術の歪んだ喜びの犠牲にもなった。ヴィンダセルの嘆きの車輪、セルセンの内臓庭園、多くの奴隷の体に見られた人体彫刻などである。また、火の王ハドフールの領土ではさらにひどいことも行われていた。デイドロンから抽出した薬を人間に使って苦痛を与える新たな方法が発見されたのである。子供たちは夜になると彼らの戦いを見て大喜びした。 モーリアウスが語るアレッシアの名前 そして、モーリアウスは彼らに言った。「彼女のことを語るとき、お前たちは彼女を様々な名前で呼ぶ。アレ=エシュというのは、畏敬の念を込めた呼び名だ。訳すと、「高貴な、あまりにも高貴な」という冗長な意味になる。アレ=エシュという名前がくずれて、もう少し親しみやすい呼び名が生まれた。アレシュト、エシャ、アレッシアなどだ。また、彼女はパラヴァントとしても知られている。彼女の即位のときに、「彼らのなかで始めのもの」という意味を込めてつけられた名前だ。死を免れない人間でありながら敵を討ち、捜し求め、癒し続けた彼女の偉大さを称えて神々が与えた。この名前からはパラヴァル、ペヴェシュ、ペレス、ペリフなどの名前が生まれた。そして、俺自身は、大切な彼女をパラヴァニアと呼んでいた」 「彼女は俺のもとを去ってしまったが、今でも星々に囲まれて光り輝いている。最初の女皇、天の女神、シロドの女王として」 彼らはその答えに満足し、その場を去った。 ダンジョン 九大神の騎士関連 歴史・伝記 赤2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/42.html
汝 我々を以下と見なすがいい 死 敗北 そして恐怖と 我々は死することはない 死を恐れることもない 肉体を破壊すればアニマスは闇へと追いやられる だがアニマスはいずれ戻ってくる だが我々全てが勇猛なわけではない 我々は苦痛を感じ それを恐れる 我々は恥を感じ それを恐れる 我々は損失を感じ それを恐れる 我々は闇を憎み それを恐れる スキャンプは考えが小さく 恐怖も小さい ヴェルマイは考えが無く 恐怖も無い ドレモラは考えが深く 恐怖を知り 克服しなければならない 一族の縛り 我々は 我々の意志で他者に仕える 我々は加護を得るため 強きものに仕える 一族は伝統に沿って仕えるが 伝統が変わることもある ドレモラは長きに渡りデイゴンに仕えているが 初めからそうではなかった 誓いの縛りが固く 相互に信用がある時 伝統も固くなる 誓いの縛りが弱ければ 苦痛と 恥と 損失と 闇と 大いなる恐怖に繋がる 我々が人族をどう思っているか 汝は スキャンプを滑稽に思い ヴェルマイを粗野に思うかもしれない ならば 我々が汝らをどう思っているか わかるか? 汝らは獲物であり 我々は狩人なのである スキャンプは猟犬であり ヴェルマイは勢子なのである 汝らの肉は旨く 狩りは良き余興である 汝らが狐や兎を讃え その機転や素早さを褒め 猟犬がその肉を裂くのを惜しく思うのと同じく 我々は時に獲物を褒め それが我々の罠や追い立てをかいくぐると密かに喝采を送るのである だが 万物の例に漏れず 汝らはやがて廃れ 荒れていく 齢を重ね 醜く 弱く 愚かな存在へと成り果てる 遅かれ早かれ 汝らは失われるのである 時に獲物が踵を返し 我々に噛みつくことがある だがそれも些事に過ぎぬ 傷ついたり疲れたとしても 我々はその場から飛び去り 回復するだけである 時に価値あるものが失われることもあるが その危険があればこそ 狩りの楽しみも高まるのである 人族の謎 人族は定命であり 死と挫折から逃れられぬ運命にある 我々が理解できぬのは 汝らが何故 絶望せずにいられるかである メインクエスト関連 民族・風習・言語 赤3
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/142.html
黒い矢 第1巻 ゴージック・グィネ 著 ウォダの女公爵の夏の邸宅地に召使いとして雇われた時、私はまだ若かった。それまで貴族の称号を持った人たちと接する機会など、ほとんど無かった。エルデン・ルートには豪商、貿易商、外交官、それに役人たちが大きな事業や娯楽のための派手な邸宅を持っていたが、私の親族は彼らのような社交界の人たちとはまったく無縁だった。 大人になっても手伝う家業はなかった。そんな折にいとこから、遠く離れた地所で召使い募集の噂話を聞いた。そんなに遠くでは志願者も少ないだろうと思い、私はヴァレンウッドのジャングルをひたすら歩いて向かった。歩いて5日がたとうとするころ、同じ方向へ向かう騎馬の一群と出会った。ボズマーの男が3人に同じくボズマーの女が1人、ブレトンの女が2人、ブレトンの女が2人、ダンマーの男が1人。皆そろって冒険者の身なりであった。 「あなたもモリヴァにいくの?」そう聞いてきたのはブレトンのプロリッサだった。それから私たちは互いに自己紹介をした。 「そこかどうか分からない」と私は答えた。「ウォダの女公爵のところで仕事があると聞いて向かってるんだけど」 「それなら近くまで連れて行ってあげるよ」ダンマーのミッソン・エイキンがそう言うと、私を馬の背に引っ張り上げてくれた。「でも、モリヴァに戻る学生たちに送ってもらったなんてことは女公爵には絶対に言わないほうがいいよ。雇ってもらえなくなるかもしれない」 馬に乗っている間、エイキンは自分の身の上話を聞かせてくれた。モリヴァは女公爵の地所から一番近くにある村で、そこにすばらしい腕前の有名な弓の使い手がいるとのことだった。長年の軍隊生活のあと、そこで隠遁生活を送っていた。彼の名はヒオメイスト。引退したにも関わらず、弓術を学びたいと訪れる生徒を受け入れていた。そのうち、偉大なる教師がいるとの噂が広まり、彼の元をたずねる生徒があとを絶たなくなった。ブレトンの2人はハイ・ロックの西地区からやって来たと言う。エイキンもモロウウィンドの大火山近くにある故郷からはるばる大陸を渡って来たのだ。彼は故郷から持ってきたという漆黒の矢を見せてくれた。私はこれほど見事な黒を見たことがなかった。 「聞くところによれば……」とボズマーのコペールが言った。「女公爵は元は帝都の人間だったが、帝都が成立する前に家族全員でこの地に移り住んだらしい。そうすると、彼女もすっかりこのヴァレンウッドの地に慣れ親しんでいると思うだろ? ところが実際はそうでもないらしい。この村とその弓学校を嫌っているそうだ」 「彼女はジャングルの中の交通網でさえ、支配下におさめようとしてるのよ」と言ってプロリッサは笑った。 情報をもらって礼を言いながらも、その偏屈そうな女公爵に初めて会う日がだんだん恐ろしく思えてきた。木々の間から初めて邸宅が見えた時でさえ、心の不安は何一つ晴れなかった。 それはかつて、ヴァレンウッドで見たことのないような建物であった。石と鉄とが組み合わさってできたその巨大な邸宅には巨獣の顎のように尖らせた胸壁が並んでいた。邸宅近くにあった木のほとんどが、ずいぶん前に切り倒されたようであった。その当時はひと悶着起こったであろうが、女公爵はバズマーの農民など恐れていなかったようだ。邸宅は木々に変わって灰緑色の堀で囲まれていた。それはまるで人口の島のようにも見えた。このような光景は、ハイ・ロックや帝都からもたらされたタペストリーの図柄で見たことはあっても、故郷では決して目にしないものであった。 「門のところには門兵がいるようだから、このへんでそろそろお別れだ」と言いながら、エイキンは馬をとめた。「ここまで私たちと一緒に来たことは内緒だよ」 私は彼らに礼を言って、彼らの弓術の腕前が上がるよう幸福を祈った。彼らは馬を進ませ、私は歩き始めた。すぐに正門のところへ着き、気づくとそこは厳重にも頑丈そうな警備がしかれた高い柵があった。門兵に召使いの仕事を探しにきたことを告げると中へ通してくれ、門兵は先に広がる芝生の反対側にいるもう1人の門兵に指示を出し、跳ね橋を下ろして渡らせてくれた。 最後の警備網、正門にたどりついた。門の上には巨大な鉄製のウォダ公の紋章がかかげられていた。その上にはさらに鉄片で強化されており、金であしらわれた鍵穴が1つあった。門兵がドアを開けてくれ、灰色の石材で積み上げられた、陰鬱かつ巨大な邸宅内へと招きいれてくれた。 女公爵とは客間で挨拶を交わした。彼女は爬虫類のように痩せて、皺だらけだった。この時はシンプルな赤色のガウンを着ていた。彼女は決して笑顔を作る努力をしない人であることは明らかだった。面接の質問はたった一つだった。 「帝都貴族に雇われた若い召使いの仕事とは?」と聞く彼女の声はしなびた革のようであった。 「わかりません」 「そう。これまで見てきた召使いたちは自分に何が求められてるかなんてまったく知らなかったわ。仮に知っていると答えたとしても、私、そんな召使いは気に入らない。あなた合格よ」 邸宅内での生活にはたいして楽しみもなかったが、一番下っ端の召使いの仕事はそれほどきつくはなかった。女公爵の留守番以外にすることがほとんどなかったのである。暇な時は2マイルほど歩いてモリヴァまで行った。ヴァレンウッドの同じような村でもそうだが、この村でも特別変わった出来事は起こらなかった。だが、近くの丘陵斜面にはヒオメイストの弓術学校があり、時々お弁当をこしらえて、練習を見にいった。 プロリッサとエイキンとは練習のあと会うようになった。エイキンの話す会話のテーマはもっぱら弓術に終始した。彼のことは好きだったが、プロリッサのほうが魅力ある人にうつった。美しいブレトンだったからではなく、彼女はどうやら弓以外の世界にも興味があるようだったからだ。 「小さい頃にハイ・ロックでクイルサーカスを見たわ」ある時、森を歩きながら彼女はこう話し出した。「老いも若きも知っているほど長いことやっているわ。あなたももし機会があれば、是非見にいくといいわ。芝居あり、余興あり、あっと驚く曲芸や弓芸も見られるわ。私もいつかは腕を磨いて、あのサーカス団に加わることが夢なの」 「いつ腕が磨かれたかなんてどうやってわかるんだ?」と私は尋ねた。 その問いかけに対して、彼女からの返事はなかった。振り向くとそこに彼女の姿はなかった。周りを見渡しながら困惑していると、頭上の木のあたりから笑い声が聞こえてきた。彼女は枝の上に立ち、にっこりと微笑んでいた。 「私は弓の使い手としてじゃなく、できれば曲芸師として参加したいの」と彼女は言った。「もしくはその両方ね。ヴァレンウッドは学びの場としてもっとも適した場所よ。ここの森にも教えを請うべき偉大な先生たちがたくさんいるわ。たとえば猿人とかね」 彼女は一旦体をかがめ、左足で踏ん張り、右方向へ飛びはねたかと思うと、さっそうと別の枝へと移っていた。彼女に話しかけ続けるのは大変だった。 「それってイムガのことかい?」と私はどもりながら言った。「そんな高いところにいて、怖くない?」 「平気よ」と彼女は言いながら、さらに高い枝へと飛び移っていく。「秘訣はね、下を見ないこと」 「降りてこない?」 「そのうちね」と彼女は言った。今や地上から30フィートの高さにいる彼女は、バランスをとるように腕を伸ばし、細い枝の上を歩く。そして、道の向こう側にかろうじて見えるほどの門を指差し、「この木から女公爵の邸宅に手が届きそうだわ」 彼女が枝から飛び降りたその瞬間、私はハッと息をのんだ。彼女は宙返りをしながら、膝をやや曲げて見事に着地して、「これも技の1つよ」と言った。私は、あなたならきっとクイルサーカスの花形団員になれると激励した。もちろん、今でならそんな未来は訪れないことを知ってる。 その日は早めに邸宅に戻らなければいけないことを思い出した。私にはめったに仕事がないのだが、女公爵に来客がある時は邸宅内にいなければならなかった。それもたいした仕事ではなく、晩餐の間、気をつけの姿勢で立っているだけであった。目の前を執事や給仕係が忙しなく料理を運び込み、空いたお皿があれば下げていく。しかし召使いの私は、この部屋では形式ばったただのお飾りとなるのであった。 しかし、少なくとも私はそこで、その後起こるドラマの─観客となった。 赤3 随筆・ルポルタージュ 黒い矢 第2巻 ゴージック・グィネ 著 私が女公爵の邸宅で従事した最後の晩餐会には、驚いたことに、モリヴァ村長とヒオメイストが他の客と共に招かれていたのである。召使いたちは噂話に夢中である。村長の訪問は以前にもあったが、非常に稀である。しかし、ヒオメイストの出席は考えられなかった。女公爵のこのような行為は、何を意味しているのだろうか? 他の会食に比べればいささか冷たい雰囲気が漂っていたが、晩餐会そのものは滞りなく首尾よく進んでいた。ヒオメイストも女公爵も、口数は共に非常に少ない。皇帝ペラギウス四世に新しく生まれた息子と後継者であるユリエルについて、一同に議論を投げかけようとした村長であったが、その試みは人々の興味を余り惹かず失敗に終わってしまった。すると、ヴィルア卿婦人── 年上ではあったが、妹の女公爵よりも快活である── が、エルデン・ルートでの犯罪とスキャンダルとについて水を向けた。 「ここ数年、情勢が悪くなっているから、エルデン・ルートから離れるよう姉に言ったんです」と言って女公爵は村長と目を合わせた。「つい最近もモリヴァ丘に彼女の邸宅を建てられないか、そのことを話し合ったばかりです。でも、ご存知の通り、あそこはスペースが足りないでしょう? でも運よく、良いところを見つけました。ここから数日ばかり西の方の川岸の広い野原で、本当に理想的なところです」 「それは非常に結構ですね」と、言って村長は微笑むと、ヴィルア卿夫人の方に顔を向けた。「建設はいつから始められますかな?」 「その場所にあなたの村を移した、その日からね」とウォダ女公爵は言葉を返した。 村長は女公爵が冗談を言っているのだと思って彼女を見た。しかし冗談ではなかった。 「川岸に村を移したら、どれほど商益が上がるか考えてみてください」とヴィルア卿夫人は陽気に言った。「それに、ヒオメイストの学生たちも、その素晴らしい学校に通い易くなるでしょう? みんなのためになるんですよ。そうすれば、妹の土地を勝手に踏み荒らす者も少なくなり、心安らかになれるでしょうね」 「今はあなたの土地に入り込むようなものたちはいませんよ」とヒオメイストは顔をしかめた。「このジャングルはあなたのものではありませんし、いずれそうなることもありませんでしょう。村人たちがここを出て行くよう説得されるのは構いませんが、私の学校が移ることはありませんよ」 それから、晩餐会が和やかな調子に戻ることは決してなかった。ヒオメイストと村長が中座を申し出て、一同も客間に酒を求めて出て行き、私が呼ばれることもなかった。その夜は、壁越しに笑い声が漏れてくることはなかった。 翌日、その夜も夕食会が予定されていたが、いつものように私はモリヴァへと足を運ぼうとしていた。しかし、跳ね橋に差し掛かる前に、衛兵が私を連れ戻して言った。「何処に行くんだ、ゴージック? まさか村じゃないだろうな?」 「どうして行けないの?」 彼は遠くに立ち昇る煙を指さした。「今朝早くに火事が起きて、今も燃えてる。どうやら出火元はヒオメイスト学校だ。山賊の仲間の仕業だろうな」 「ステンダールよ!」と私は叫んだ。「学生は大丈夫ですか?」 「分からないが、生き残ってたら奇跡だろうな。未明の出来事で、ほとんどみんな寝入ってただろうからね。師匠の遺体、いや、『師匠だったもの』は見つかったそうだよ。それに、君の友達の女の子、プロリッサの遺体もね」 その日は失意のうちに過ごした。そんなことはありえないとは思ったが、私はあの2人の老貴族、ヴィルア卿夫人とウォダ女公爵が村と学校にいらだちを覚え、それらを灰にしてしまおうと企んだのではないかと直感した。夕食の席では、たいしたニュースでもないかのように、モリヴァでの火災についてほんの少し触れるだけであった。しかし、私は初めて女公爵が笑うのを見たのである。その笑顔を、私は死ぬまで決して忘れないであろう。 翌朝、私は村に行って、生き残った人々の手伝いが何かできないか見に行ってみることに決めた。召使いの間を抜けて豪華なロビーに差し掛かったところで、前の方から何人かの声が聞こえてきた。そこには衛兵とほとんどの召使いが集まっていて、ホールの中央に掛けられている女公爵の肖像画を指さしていた。 肖像画の女公爵のまさに心臓の位置を、1本の黒檀でできた矢が刺し貫いていたのである。 私はすぐに気づいた。それはミッソン・エイキンのものだ。彼が見せてくれた矢筒の中にあった1本、彼いわく、ダゴス・ウルで鍛え上げられた代物である。私はまず最初に安心した。親切に自分を邸宅まで乗せて来てくれたダンマーは、生き残っていたのだ。そして次に、玄関に集まった一同と同じことを考えた。どうやって、衛兵、門、堀、そして、分厚い鉄の正門を突破できたのだろうか? 私のやや後から来た女公爵は、明らかに激怒していたが、育ちの良さからか、その薄い眉を上げてみせただけであった。早急に召使い全員に、始終、邸宅の敷地を警備するよう新たな仕事を命令した。私たちは普段の仕事に加えて、厳重な警備を敷くことになった。 翌朝、この厳戒態勢にも関わらず、新たな黒い矢がまたも女公爵の肖像画を刺し貫いた。 こんなことが一週間も続いた。ロビーには少なくとも一人の人間を置くようにしていたが、どういうわけか、ほんの一瞬警備のものが目を離した隙に、いつも、矢が絵のところで発見されるのであった。 警備する者たちの間で、寝ずの番の間に聞いた物音や不審な出来事を知らせるよう、一連の複雑な合図が考案された。最初は、日中の不審な出来事の報告は城主が、夜間の出来事の報告は衛兵隊長が受け取るように取り決められた。しかし、女公爵は夜眠れないということなので、結局彼女に直接伝えることになった。 邸宅の雰囲気は、陰気から悪夢へと変わっていった。1匹の蛇が這い、堀を渡るのが目に入ったら、ウォダ女公爵は一目散に東の翼面に駆けて行き、丹念に調べ上げた。一陣の突風が芝生に生える木々の1本の葉をざわめかせただけでも、やはり「緊急事態」扱いだった。不運だったのは、偶然1人で邸宅の前を歩いていた旅行者たちである。彼らに何の罪も無いのは明白であるにも関わらず、まるで戦争に遭遇したように暴力が振るわれた。確かにある意味、戦争であった。 そして毎朝、彼女をあざけるかのごとく、正面玄関には矢が突き刺さっていた。 ある早朝の数時間、肖像画を警備する嫌な仕事に私も駆り出された。もう矢が見つからなければ良いのにと思いながら、その肖像画の正反対に置かれた椅子に腰掛けて、私は一瞬でも目を離さないようにした。ところで、読者には1つのものを眺め続けるという経験はあるだろうか? それは奇妙な効果を生むものであった。ほかの全ての感覚が消え失せてしまうのだ。そのため、部屋に駆け込んできた女公爵が私と肖像画の間に立ちはだかった時には、驚いたものであった。 「門からの道のむかいの木の陰で何かが動いているのよ!」と彼女はわめいて、私を脇に追いやり、おたおたと金色の鍵をかけ始めた。 彼女の体は乱心と興奮に震えて、鍵は上手くかからない。手を貸そうと彼女に近づいた時には、すでに女公爵の目は鍵穴を見つめてひざまづいていた。鍵は入ってくれたようである。 まさに、その瞬間、矢が到達した。しかし、決して肖像画まで届かなかった。 それから数年後、私がモロウウィンドで貴族を楽しませている頃、ミッソン・エイキンに再会した。私が邸宅の召使いから、名の知れた吟遊詩人に出世していたことに、彼は感心していた。彼自身はアシュランドに帰り、彼の師匠であるヒオメイストのように引退して、教師兼狩人という簡素な生活を送っていた。 ヴィルア卿夫人は街を移さないことを決め、モリヴァの村は再建されたそうだと、彼に話した。それを聞いて彼は喜んだが、私が本当に知りたかったことを尋ねるきっかけは見つけられなかった。自分の考えは馬鹿げていると思ったからだ。つまり、あの夏の毎朝、門に対して道を挟んだところに生えていたプロリサスの木の陰から、門と芝生と堀と鍵穴を通り抜け、ウォダ公爵の肖像画へと矢を放ち、最後には、彼女自身にも矢を放ったということだ。そんあことは明らかに不可能である。私は聞かないことにした。 その日の内に別れたが、彼はさよならと手を振って、こう言った。「ゴージック、元気にやってそうでなによりだ。あの時は椅子を動かしてくれてありがとう」 茶2 随筆・ルポルタージュ
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/197.html
狼の女王 第1巻 ウォーヒン・ジャース 著 筆:第三紀1世紀の賢者モントカイ 第三紀63年 この年の秋、皇太子ペラギウスはカムローンの都市国家ハイ・ロックへ出向いた。皇帝タイバー・セプティムの姪が女皇キンタイラであり、その息子が皇太子ユリエルで、ペラギウスはそのユリエルの子である。彼は、ハイ・ロックの王ヴァルステッドの娘に求婚に来たのだった。この王女の名はクインティラといい、タムリエルで一番と言われる美貌の持ち主であった。彼女は女性らしい作法を完ぺきに身に付けており、また優れた妖術師でもあった。 ペラギウスは11年前に前の妻を亡くしており、アンティオカスという名の男の子がいた。ペラギウスがハイ・ロックに来たとき、この都市国家には巨大な狼の姿をした悪魔が住みつき、人々から恐れられていた。ペラギウスは、クインティラに求婚する前に彼女とともにこの怪物を倒し王国を救うことになった。彼の剣と彼女の妖術によって狼は殺され、クインティラは神秘によって狼の魂を宝石の中に封印した。ペラギウスはその宝石を使って指輪を作らせ、クインティラと結婚した。 しかし、狼の魂は皇太子夫妻に最初の子が生まれるまでの間、彼らにつきまとっていたといわれる。 第三紀80年 「陛下、ソリチュードから大使が到着しました」執事のバルヴァスが耳打ちした。 「夕食の途中にか?」と、皇帝は不満そうにつぶやいた。「待つように伝えろ」 「いえ、父上、お会いになったほうがいいですよ」と、ペラギウスは立ち上がりながら言った。「相手を待たせたら、相手に不利なことを言いづらくなるんです。外交上よくありません」 「それならここにいろ。お前は私よりずっと外交がうまいのだから。家族がここに揃っていなければ」と、皇帝ユリエル二世は言いかけて、夕食の席にずいぶん人が少ないことに気付いた。「妻はどこだ?」 「キナレスの主席司祭と寝ています」というのが本当のところだったが、ペラギウスは皇帝の言ったとおり外交に長けていた。彼は言った。「礼拝中です」 「お前の兄弟たちはどうした?」 「アミエルはファーストホールドへ、魔術師ギルドの大賢者に会いに行っています。ガラナは、ナルシスの公爵と婚礼の準備をしていますよ。もちろん、このことは大使には言わないでおきましょう。彼はガラナがソリチュードの王と結婚すると思ってますから。彼には、ガラナは温泉へ行って伝染病のできものを取ってもらっているとでも言っておきましょうか。そう言っておけば、王と結婚させようとは思わなくなるでしょう。いくら政治的に得があっても」ペラギウスは笑った。「ノルドはできもののある女性が大嫌いですからね」 「しかし何てことだ、たくさんの家族に囲まれていたかったのに、これでは一番近しい家族にすら見捨てられた嫌われ者の老人みたいじゃないか」と、皇帝は怒った声で言ったが、的確な表現だった。「お前の妻は? それに孫たちはどこにいるんだ?」 「クインティラは、子供部屋でセフォラスとマグナスと一緒です。アンティオカスは帝都で娼婦とでも遊んでいるんでしょう。ポテマはどこにいるのか知りませんが、多分勉強部屋でしょう。父上は、まわりに子供がいるのはお嫌いかと思ってたんですが」 「陰気な部屋で大使と会わねばならんときには、まわりに子供がいたほうがいい」皇帝はため息をついた。「空気が、何というか、純粋で文化的な感じになるからな。ああ、いまいましい大使のやつをここへ呼べ」と、皇帝はバルヴァスに命じた。 そのころ、ポテマは退屈していた。帝都州はちょうど冬、雨季の最中で、帝都の通りや庭園はどこも水浸しだった。彼女には、雨が降っていなかった頃のことが思い出せなかった。前に太陽を見たのは数日前のことだったか、それともこの雨はもう数週間や数ヶ月降り続いているのだろうか? 王宮を照らすたいまつの灯がちらちらと揺れて時間の感覚を忘れさせ、激しい雨の音を聞きながら大理石の廊下を歩いていると、ポテマの頭の中には退屈だという感覚以外何もなくなっていた。 今ごろ、家庭教師のアセフェがポテマを探しているはずだった。ポテマは普段、勉強は嫌いではなかった。彼女は何でも簡単に暗記できたのだ。誰もいない舞踏場を歩きながら、彼女は自分に問題を出した。オルシニウム陥落は何年? 第一紀980年。タムリエルに関する論文の作者は? コセイ。タイバー・セプティムが生まれたのは? 第二紀288年。現在のダガーフォールの王は? 答えは、モーティン、つまりゴスリアの息子である。現在のシルヴェナールの王は? 答えは、ヴァーバレンス、つまりヴァーバリルの息子である。リルモスの将軍は? ひっかけ問題である。答えは女性、名前はアイオアである。 私がよい子にしていて、やっかいごとを起こさず、家庭教師が私のことをすごく優秀だと言って、それで何になるのだろう? お父様とお母様は、デイドラのカタナを買ってくれると約束したのに、後になってそんな約束した覚えがないとか、女の子には危なすぎるとか、高すぎるとか言って結局買ってくれなかった。 皇帝の迎賓室から、話し声が聞こえていた。彼女の父と、祖父と、ノルド特有の妙な訛りのある男の声だった。ポテマは以前、舞踏場にある壁掛けの後ろの石造りの壁の石の一つを、とれやすく細工していた。彼女はその石をどけ、隣の部屋の会話に聞き耳を立てた。 「率直に申し上げます、皇帝陛下」ノルドの男の声が言った。「私の主、ソリチュード国王は、ガラナ姫がオークでなくてもかまわないと申しております。王は皇帝家と婚戚関係を結ぶことを望んでおり、そして、陛下も以前、それに同意されました。もし、この婚約を破棄されるのなら、トルヴァリでのカジートの反乱を鎮圧する際に我が王が負担した何百万ゴールドという金を返していただきたい。そういう契約が結ばれたはずです。陛下は約束を守ると誓われたではありませんか」 「そのような契約には覚えがありませんが」と、父の声が言った。「そんな約束をしたのですか、陛下?」 何かぶつぶつ言う声が聞こえた。祖父である老いた皇帝の声だとポテマは思った。 「記録の間へ出向いて確かめたほうがいいかもしれませんな、私の記憶違いかもしれませんから」ノルドの声には皮肉が込められていた。「そこに保管されている契約書に、皇帝陛下の印がしっかり押されていたのを記憶しておるのですがね。実際、私の勘違いということも」 「記録の間へ使いを出して、あなたのおっしゃっている文書を持ってこさせましょう」と、父の声が答えた。非情で、相手をいなすような、父が約束をやぶるときの口調だった。ポテマはその口調をいつも聞かされていたのだ。彼女は壁の石を元に戻すと、急いで舞踏場を出た。使いの従者は普段から年老いた皇帝の使いばかりしているため、歩くのがひどく遅いことを彼女は知っていた。ポテマは急ぎ、すぐに記録の間の前まで来た。 重厚な黒檀の扉は当然施錠されていたが、彼女には何の問題もなかった。一年前、母親のメイドをしているボスマーが宝石をくすねているのを見咎め、黙っている約束と引き換えに錠前破りのやり方を教えてもらったことがあったのだ。ポテマは自分の赤いダイヤのブローチから針を2本引抜き、1本の針を錠前に差込んで、手を動かさないようにしながら中の金具や溝の形状を探り、覚えた。 それぞれの錠前は、特有の形状を持っているのだ。 食糧貯蔵庫の錠前:自由に動く6つのタンブラーと、固定された7つ目のタンブラー、それにかんぬき。彼女は遊びでその錠を破ったことがあったが、もし彼女がそこにある食料に毒を入れていたら、今頃皇帝家は死に絶えていただろう。彼女はそう考え、にやりとした。 兄のアンティオカスがカジートのポルノを隠している場所の錠前:2つの自由に動かせるタンブラーと、お粗末な毒針の罠だけ。この罠は、釣り合い錘を押さえればすぐ壊せる。この錠前を破ったことは、大きな利益を呼んだ。恥を知らないように見えるあのアンティオカスが、あんなに簡単に脅迫できるとは。実際のところ、彼女はまだ12歳で、それらのポルノの中のカジートやシロディール人の痴態は何か非現実的なものにしか見えていなかった。それでも、アンティオカスはダイヤのブローチで彼女の口を封じなければならず、それは彼女の宝物になった。 彼女の錠前破りは一度もばれなかった。アークメイジの部屋に忍び込んで一番古い呪文の本を盗み出したときも。マグナスの誕生を祝う式典の朝、ギレインの王が泊まっている客用の寝室から王冠を盗み出したときも。こういったいたずらで彼女の家族を困らせるのは簡単すぎるほど簡単だった。しかし、今回は、皇帝が重要な会談で使う文書を盗み出すのだ。それも、誰よりも先に。 しかし、ここの錠前は今まで開けた中で一番難しかった。彼女は二股に分かれた掛け金を脇へ押しやりながら針で何度もタンブラーをいじり、釣り合い錘を叩いた。30秒近くかかって、やっと扉を開くことができた。記録の間は、エルダースクロールの保管されている場所だった。 文書は年代や地方、王国によって分類され整理されており、ポテマはすぐに目的の文書を見つけることができた。『神の恩寵によってタムリエルの聖シロディール皇帝ユリエル・セプティム二世陛下およびその娘ガラナ姫とソリチュードのマンティアルコ王陛下との間に交わされた結婚に関する契約』である。彼女はこの戦利品を掴むと、記録の間の扉を再びしっかりと施錠して立ち去った。皇帝の出した使いの従者は、まだ姿も見えていなかった。 舞踏場に戻り、壁の石をはずすと、ポテマは再び隣の部屋の会話に聞き耳を立てた。数分のあいだ、ノルドと彼女の父、そして祖父の3人は、天気の話や退屈な外交的会話をしているだけだった。やがて、足音と若者の声が聞こえた。使いの従者だった。 「皇帝陛下、記録の間中を探しましたが、お探しの文書は見つかりませんでした」 「ほら、言ったでしょう」と、ポテマの父の声が言った。「最初からそんな文書はなかったんですよ」 「しかし、この目で見たんですよ!」ノルドの声は怒りに震えていた。「我が国王と皇帝陛下がその文書に署名したとき、私はそこにいたんです!」 「私の父を、タムリエルの支配者である皇帝を、疑っておられるわけではないでしょうな。なにしろ、これではっきりしたわけですから。あなたが… 勘違いをしておられたと」ペラギウスの声は低く、脅しを含んでいた。 「とんでもない」ノルドは、すでに敗北を認めていた。「しかし、国王になんと報告すれば? 皇帝家との婚戚関係も結べず、契約金も、つまり、私と国王が契約金だと思っていた金も、返ってこないとなっては?」 「ソリチュード王国との間に遺恨を残すことは、避けねばならない」皇帝の声は弱々しかったが、はっきりと聞こえた。「マンティアルコ王には、ガラナ姫のかわりに孫娘をやろう。それでどうかな?」 ポテマは、隣の部屋の冷たい空気が彼女に降りかかってくるのを感じた。 「ポテマ姫ですか? まだお若すぎるのでは?」と、ノルドがたずねた。 「あの子は13歳です」父の声が答えた。「充分結婚できる歳でしょう」 「あの子ならよい女帝になるだろう」と、皇帝が言った。「あの子は、私がみたところ、内気で純情なところがあるようだが、すぐに宮廷での振る舞いかたを身に付けるだろう── なんといっても、あの子もセプティムの血を引いているのだから。うわついたところもなく、尊大でもなく、素晴らしいソリチュードの女王になるに違いない」 「皇帝の孫娘は、皇帝の娘の代わりにはなりません」と、ノルドが、沈み込んだ声で言った。「しかし、お断りする理由もありません。国王に申し伝えます」 「下がってよい」と、皇帝が言い、ポテマはノルドが部屋を出る音を聞いた。 ポテマの目から涙があふれ落ちた。彼女は、ソリチュードの国王のことも暗記していた。マンティアルコ、62歳で、太っている。そして、彼女はソリチュードがどんなに遠くにあるか、どんなに寒い最北端の地かも、よく知っていた。父と祖父は、野蛮なノルドの国へ彼女を追いやろうとしているのだ。隣の部屋の会話は続いていた。 「よくやったな。文書はちゃんと燃やしておくんだぞ」と、父の声が言った。 「何ですって、皇太子殿下?」と、従者が不満そうな声で聞き返した。 「皇帝とソリチュード国王の契約書だ、わからんのか。あの文書の存在をなかったことにするんだ」 「皇太子殿下、私は真実を申し上げました。その文書は、記録の間には見当たりませんでした。なくなっていたのです」 「ああ、ロルカーンよ!」父の声がわめいた。「どうしてこの王宮のものはそう次から次へとなくなるんだ? 記録の間へ戻って、見つかるまで探し続けろ!」 ポテマは、文書に目をやった。ガラナ姫がソリチュード国王と結婚しない場合、何百万もの金が支払われるという契約。その文書を父の所へ持って行けば、もしかすると褒美としてマンティアルコとの結婚を取り消してもらえるかもしれない。いや、それよりも、この文書で父と皇帝を脅迫すれば、相当な大金を手に入れられるのではないだろうか。そして、大金なら、ソリチュードの女王になればどれだけ私腹を肥やせるかわからない。デイドラのカタナはもちろん、欲しいものは何でも買えるだろう。 やり方はいくらでもある。ポテマは思った。もう、少しも退屈ではなかった。 物語(歴史小説) 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/187.html
火中に舞う 第6章 ウォーヒン・ジャース 著 デクマス・スコッティは、座ってリデオス・ジュラスの話を聞くことにした。だが、いまだにこの眼前の太った男が、かつてのアトリウス建設会社の同僚であるとは信じられなかった。辺りには、スコッティがさっきまで食べていたロースト肉の、香辛料の匂いが立ち込めている。この広いプリサラホールの中の周囲の物音はすっかり消え失せていて、まるでジュラス1人しかいないようである。彼は自分がこれほど感受性豊かであることに驚いてしまったが、実際のところ、霜降月初旬に下手な手紙で帝都から彼を導いてくれた男を前に、潮が満ちていくような感慨を味わっていた。 「どこにいたんだ?」と、ジュラスは詰め寄った。「何週間か前には、ファリネスティで俺と落ちあうはずだったろ?」 「もちろん、そこに行ったさ」あまりの剣幕に驚いて、スコッティはどもりながら返した。「そこで『アセイヤーに行け』っていう君のメモを見て、そこに行ったんだが、カジートが焼き払ってたんだ。それで、避難民達と別の村へ行くことになって。その村で、君がもう殺されたって聞いたんだけど?」 「お前、そんなこと信じてたのか?」と、ジュラスがせせら笑った。 「それを教えてくれた人は、君のことをよく知ってたから。レグリウスっていうヴァネック建設委員会の人で、彼も私と同じように戦争の後のヴァレンウッドの仕事を手伝うよう誘われたと言っていたよ」 「ああ、そうだったな」とちょっと考え込んでから、ジュラスは言った。「たった今、その名前を思い出したよ。この商売、きっと上手くいくぜ。何たって、帝都を代表する建設委員会の2人が、工事の入札の手筈を調えるのを手伝ってくれるんだからな」 「レグリウスさんは死んだよ」と、スコッティは言った。「でも、ヴァネック建設委員会の契約書は持って来たけど」 「おお、上出来だ!」と、ジュラスは感嘆の声を上げた。「ふん、お前がそこまで無慈悲になれる奴だったとはなぁ、スコッティ。まぁ、これでシルヴェナールの仕事もやり易くなったな。バスの紹介はまだだったな?」 スコッティはジュラスの隣にいる、ジュラスと同じ位の胴回りを持つボズマーの存在にはぼんやりとしか気付いていなかった。スコッティはバスにそっけなく目礼をしたが、まだどこかうわの空の気持であった。彼の頭には、シロディールへ安全に帰れるように、できるだけ早くシルヴェナールへ嘆願する、ということしかなかった。その後ジュラスと、ヴァレンウッドとエルスウェーアやサムーセット島との戦争からどうやって稼いでやろうか算段している時も、どこか他人事みたいに思えてならなかった。 「俺とあんたの同僚は、いまシルヴェナールについて話してるんだぜ?」と、今までかじっていた羊の脚を置きながら、バスは言った。「ちゃんと話を聞いてないようだが」 「少しぼんやりしてました。シルヴェナールというのは、とりわけすごい人なんですね」 「彼は民衆の代表なんだよ、法律的にも物理的にも精神的にも」と、新しい相棒の常識の無さに苛々しながら、ジュラスが説明してくれた。「ここの連中が健康なのも、ほとんど女ばっかりなのも、彼のおかげだ。もしも庶民が、食べ物や商売や外国からの邪魔に不平を漏らしたら、彼は連中と同じ気持になってその不平を避ける法律を作るのさ。つまり、彼は独裁者なのさ。ただし、民衆のためのだ」 「それは……」スコッティは適当な言葉を探し出した。「戯言だね」 「そうかもしれない」バスは肩をすくめてみせた。「だが、彼は、『民衆の声』という多大な権限を持ってる。その中には、外国の会社による建設許可や契約交換を認可する権利も、もちろん含まれている。信じてくれなくても構わんが。シルヴェナールをお前の所の頭のイカれた皇帝、例えばペラギウスみたいなもんだと考えてみてくれ。今現在、このヴァレンウッドは四方八方から攻撃されてかなり参ってる。シルヴェナールも、よそものに対してはすっかり不信と恐怖を抱いてる。たった一つの民衆の望み── つまりは、シルヴェナールの望みでもあるが── は、帝都が介入してこの戦争を終わらせることだ」 「皇帝が?」と、スコッティが尋ねた。 「あのイカレた皇帝に期待するのは無理かも知れんが」と言いながら、ジュラスはレグリウスの鞄から、空白の契約書を取り出した。「実際、あいつがどうするかなんて誰にも分からん。それより、レグリウス様のおかげで、随分と仕事がスムーズに行きそうだ」 彼らは、シルヴェナールと会うとき、どうやって自己紹介するかについて夜まで話し合った。スコッティは食事をつづけていたが、残りの2人ほどの量ではなかった。太陽が丘に登り始め、光が水晶の壁を通して3人を赤々と照らした。ジュラスとバスは、シルヴェナールに会いに行く代わりに、自分たちの部屋へ戻っていった。スコッティは、自分の部屋に戻ってジュラスの計画に穴が無いかどうか考えを巡らせていたが、冷たく柔らかいベッドに抱かれて、すぐに深い眠りへと落ちてしまった。 次の日の午後にスコッティは目覚め、体の調子が良いのを感じた。言い換えると、おびえてもいた。考えてみれば、この数週間、ずっと生死をさまよっていたようなものだった。極限の疲労を味わったり、ジャングルで獣に襲われたり、飢えてげっそり痩せ細ったり、おまけに、アルドメリの詩作についての議論に巻き込まれたりしたのだ。それに、ジュラス達との、どうやってシルヴェナールを騙くらかして彼の署名入りの完全に合法な契約書をこしらえるか、という討論もあった。そんなことを考えながら着古しの服に着替えると、食べ物とゆっくり考え事ができる場所を求めて階段を下りた。 「起きたか」というバスの声がスコッティの頭上から降って来た。「今から宮殿に行くぞ」 「今から?」と、スコッティは愚痴をこぼした。「見て下さいよ、この格好。今から女を買いに行くのとはわけが違うんですよ。『ヴァレンウッドの民衆の声』とやらは、あなたが独りで届けてきて下さい。風呂にも入ってないんです」 「いいか、この瞬間から、お前は事務員じゃなくて商人見習いだ」スコッティを燦々と陽が差す大通りに引っ張って来て、ジュラスが勿体ぶって宣言した。「まずやらなくちゃいけないことは、将来有望な顧客に何を示し、どういうやり方がしっくりいくかを考えることだ。大体、豪勢な衣装やプロの立ち居振る舞いなんかじゃ、お前はシルヴェナールの旦那を騙せないんだよ。そんな風にやろうとしたころで、失敗するのは火を見るより明らかなのさ。ここは俺に任しとけ。俺やバスも含めて何人かが宮廷に行ってみたが、何かしらヘマをしちまったもんだよ。がっついたり、格式張ったり、商売の話ばかりしようとしたり、な。それで、もう二度とシルヴェナールと会えなくなっちまったわけだ。だが、俺達は今でも居残っている。その後、宮廷についてぼんやりと考えてみたり、宮廷の情報を仕入れてみたり、ピアスを開けてもらったり、ぶらぶら散歩したり、がつがつ飲み食いしてた。あえて言うなら、1ポンドか2ポンドは太ったな。さて、俺達がシルヴェナールの旦那に伝えるべきメッセージは簡潔にして明瞭だ。『私たちにとってではなく、彼にとってとても興味深い面会になるでしょう』だ」 「計画は始まった」と、バスが付け加えた。「大臣に『我々帝都の代表者が到着しました、朝のうちにシルヴェナール様にお会いしたいので、すぐにでも連れて参ります』と伝えておいたよ」 「遅刻してるじゃないか?」と、スコッティは聞いた。 「ああ、大幅にね」とジュラスは笑みで返した。「しかし、それも計画の内さ。慈悲深く、私利私欲を見せずだ。シルヴェナールを、世襲貴族と間違えちゃいけないぜ。奴は、庶民の心の拠り所なんだよ。どうやって彼を丸めこんだらいいか、お前も分かるだろう?」 それから数分間、ジュラスはヴァレンウッドについて何がどれだけ足りないか、それにはいくらの金がかかるかについてという講釈を話しながら歩いた。その額は莫大なもので、規模も費用も、スコッティが今まで扱ったものよりも遥かに大きなものであった。スコッティはそれを注意深く聞いた。彼らの周り、シルヴェナールの街は、ガラスや花々、風のうなり声や心地よい気だるさを鮮明に感じさせた。宮殿に着くと、スコッティは立ち止まりあぜんとした。ジュラスはそんな彼を見つめ、笑った。 「変わってるだろ?」 その言葉の通りだった。緋色の爆発をそのまま凍らせたような、ねじれて不均衡な尖塔が太陽を付き刺さんとばかりに伸びている。小さな村ほどもある庭園には、廷臣や召使い達が、たくさんの昆虫のように、互いの体液を吸う勢いで歩き回っている。花びらのような橋を渡って、3人は不安定な壁に覆われた宮殿の中を歩いて行った。細かく区切られた区画があり、それぞれは日陰の集会所や小さな部屋であるらしい。何度か道を曲がって行くと、一行は壁に囲まれた中庭に到着した。そこには、ドアはなく、どうやら宮殿をぐるりと巡るらせん階段の他にシルヴェナールの所に行く方法はないようだった。つまり、会議室や寝室や食堂を通り抜け、高僧や王妃や宮廷楽団員や、それに大勢の衛兵の側を通って行くのだ。 「実に愉快なところだ」と、バスが言った。「だが、いささかプライバシーに欠けてるな。まあ、そこがシルヴェナールには好都合なんだろう」 宮殿に入ってから2時間後、廊下を歩いていた一行は、剣や弓をちらつかせる衛兵達に呼び止められた。 「私達は、シルヴェナール陛下との謁見を望む者達です」ジュラスは、辛抱強く言葉を選んだ。「こちらは、デクマス・スコッティ氏、帝都の代表です」 一人の衛兵が廊下を曲がって姿を消すと、背丈の高い、革を縫い合わせたローブを着込んだ高貴そうなボズマーを1人連れて来た。シルヴェナールの経済相である。「陛下は、デクマス・スコッティ氏、彼1人との謁見を御所望でいらっしゃる」 とやかく言ったり不安の色を見せたりしている場合では無かった。スコッティは、残る2人の方も見ずに歩を進めた。大体、彼らに泣きついたところで、無関心を装われるに決まっているのだ。大臣の後をついて行って謁見室に通された彼は、この謁見で重要なことを全て暗誦すると、ジュラスの立てた計画を心に思い描いた。 シルヴェナールの謁見室は、壁が天井に向かって次第に内側へ反っていき、緩やかなドーム形をしていた。何百フィートもの高さから、陽光が天井の隙間を縫って、銀色に輝く錦の上に立つシルヴェナールに降り注いでいた。この街や宮殿に比べ、シルヴェナール自身は至って普通に見える。体つきは太っても痩せてもおらず、穏やかで均整の取れた顔立ち、少し疲労の色が見えるが、帝都のどの州議事堂にもいるような、ちょっと変わったウッドエルフというところだ。しかし、彼が高座から降りてきて、スコッティは風変わりなところを見つけた。背丈が非常に低いのだ。 「私は、お前だけと話がしたい」シルヴェナールは、ありふれた、気取らない口調で切り出した。「書類を見せてくれないか」 スコッティはヴァネック建設委員会の契約書を手渡した。シルヴェナールはそれをじっと見ると、「帝都」という飾り文字の上に指を走らせてから、彼に返した。彼は何だか気恥ずかしくなって、床に顔を向けてしまう。「我が宮廷には」とシルヴェナールが言った。「この戦争で儲けようというペテン師どもで溢れ返っている。おおかた、お前や、お前の同僚もそうであろう。しかし、この契約書は本物のようだな」 「もちろんです」スコッティは冷静に応えた。彼のあまり格式ばっていない、へつらう様子もない口調は、シルヴェナールに好印象を与えたようだ。これは、ジュラスに教えられた通りである。「再建が必要な道路の話、アルトマーに壊された港の修復のお話をいたしましょう。それから、経済網の再整備に必要な費用の見積もりをお出しします」 「ところで、どうして2年前にエルスウェーアとの戦争が始まったときに、皇帝は使節を派遣してくれなかったと思う?」と、シルヴェナールがゆうつつそうに尋ねた。 スコッティは、返答する前に、このヴァレンウッドで会ったボズマー達との会話を思い出してみた。彼を国境からここまで護衛してくれた、金に汚くおどおどしていた兵士達。ファラインスティのウェスタンクロスにいた、大酒飲みたちや、害虫駆除(彼も駆除されそうになった)の射手達。ハヴェル・スランプの詮索好きなパスコス母さん。哀れむべき元海賊のバルフィックス船長。悲哀に満ちた、しかし希望を捨てていないアセイヤーやグレノスの避難民達。乱心と殺意に満ち、自身をも滅ぼす勢いのヴィンディジの荒野の狩人。マロンに雇われた、物静かで気難しい船員達。ちょっと風変わりなバス。もしも1つの生物が、それが住む地域の生物の気質を代表するというならば、その生物の個性とはどのようなものだろうか? スコッティは仕事上でも気質上でも事務員である。だから、目録や書類を作ったり、何かをシステムに組み込んだりすることには本能的に安らぎを覚える。もしもヴァレンウッドの人々の気質の欄に何か書き込まねばならないなら、いったい何がふさわしいだろうか。 ほとんど考えるまでもなく答えは出て来た。「否定」だ。 「私はその質問に興味がありません。すぐに商談に移って構いませんか?」と、スコッティは言った。 その昼の間中、2人はヴァレンウッドの再建計画について議論を交わした。全ての契約書に、記入と署名がなされていった。費用がどんどんと加算される一方で、余白にも追加条項が走り書きされていき、それにも署名が重ねられる。こうして素早く交渉はまとめられていったが、その内容は決して考え無しのものではないことに、スコッティも気付いていた。実際のところ、「民衆の声」の計画はかなり効率的なものであり、これに従えば、日常生活も上手く回っていくだろう。つまり、漁獲や経済利益や航路や森林の状態などが、事細かに考えられたものだったのだ。 「この契約の成功を祝して、明日の夜、祝宴を開こう」と、シルヴェナールが最後に言った。 「今夜はどうですか」と、スコッティは答えた。「この契約書を持って、明日シロディールに発たなきゃならないんです。なので、そこまでの路を確保して頂きたい。時間を無駄にしたくないんです」 「よかろう」と言って、シロディールは呼び寄せた経済相に封をした契約書を渡し、祝宴の準備に向かって行った。 スコッティが謁見室を出ると、ジュラスとバスに迎えられた。彼ら2人は、長い間気を揉んでいたせいか、すっかり顔が引きつってしまっている。衛兵達の姿が見えなくなると、すぐに彼に首尾を尋ねてきた。スコッティはすべて説明した。契約書を見せると、バスは、歓喜のあまり涙を流した。 「シルヴェナールを見て、何か驚いたかい?」と、ジュラスが尋ねた。 「背が低かったね。私の半分しか無かった」 「そうなのか?」と言って、ジュラスは少し驚いたようだった。「大方、俺達があんまりにも謁見しようと必死なもんだから、縮んじまったんだろうね。もしくは、民衆の苦境に心を痛めて、かな?」 物語(歴史小説) 赤1
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/145.html
預言者アルデン=スル 第二巻 サラセム ニュー・シェオスの壁に近づく者は誰でも、ある壮麗な光景に目を奪われずにいられない。円形の建物から突き出た簡素な塔から立ち上る、神秘的な炎だ。ある者たちはそれを強さと導きのかがり火として捉え、他の者たちは、自らの信仰に対するあざけりとして捉える。両者は、神の寵愛を求めて争う、いわば1枚の硬貨の裏表であり、その非常に興味深い衝突の中心点があの炎なのである。実に驚くべき過去を持つ、平凡な見た目の建物。それがアルデン=スルのサラセムなのだ。 サラセムそのものはアルデン=スルの生涯より以前から存在しているのだが、マニックス派もディメンテッド派も、サラセムの歴史に関して互いに激しく異議を唱えている。マニックス派は、ニュー・シェオスが存在する以前、アルデン=スルが初めて大啓示に苦しみ、盲人となった場所だと信じている。一方のディメンテッド派は、アルデン=スルが百日拷問に耐えた場所だと主張している。しかしながら、サラセムを預言者の名前と結びつけたのは、アルデン=スルの生涯にまつわるそのような言い伝えではなく、彼の死だったのである。 ここでもやはり、マニックス派とディメンテッド派は対立している。マニックス派が訴えるところのアルデン=スルの死は、サラセムにおける極上の酒宴の夜から始まる。その宴会では、まるで無尽蔵に用意されているかのように、グリーンモートと蒸留酒がたっぷりと供されていた。アルデン=スルと213人の信奉者たちは、勝手気ままな紛れもない乱痴気騒ぎにふけり、歌と踊りと姦通に満ちた夜を過ごしていた。盛り上がりが最高潮に達し、祝宴がめまぐるしい頂点を迎えると、アルデン=スルの信奉者たちが一人また一人と、地面に倒れ始めた。彼らの体から血が流れ出て、やがて地面は真っ赤な血の池に変わった。行き過ぎた快楽主義がついに牙をむき、彼らの心臓は破裂してしまったのだ。詳細は不確かではあるが、アルデン=スルは一番最後に、この上ない喜びの表情を浮かべて死んだとされている。 アルデン=スルの死へとつながる出来事としてディメンテッド派が語る物語は、それとは全く異なる。信奉者の一人がいつか裏切り者となり、自分の背中に剣を突き立てることを恐れたアルデン=スルは、人の魂の奥底をのぞいて本当の感情を暴く手段を探り始めた。徹底的な探求の後、他人の内臓の観察を通じて占う、内臓占いの極意を彼は見出した。この知識を身につけた彼は、信奉者たちをサラセムに呼び集めた。アルデン=スルから与えられたワインを飲んだ後、信奉者たちは身体が急に麻痺したことに気がついた。周囲に対する意識はあるのだが、動くことができないのだ。それからアルデン=スルは、まだ鼓動している信奉者たちの心臓を一人ずつ切り裂き、その血液を読んだ。213個の心臓を取り出してもなお、彼は裏切り者を見つけられずにいた。逆上した彼は自らの胸に手を伸ばし、自分自身の心臓を引きちぎった。その瞳から光が消える前に、アルデン=スルは皮肉な真実を理解したと伝えられている。彼こそが裏切り者であり、自害を運命づけられていたのだ、と。 そのどちらかの話を真剣に受け止める人がいようといまいと、あまり重要なことではない。大いなる注目を集めた預言者の死に場所として、このサラセムが重要な意味を持つという真実に変わりはないのだから。今日に至るまで、この建物はマニックス派とディメンテッド派との間で共有されたままなのだが、シェオゴラス閣下の気まぐれ次第で、気に入られたどちらかが支配することになるだろう。 SI 白1 神話・宗教
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/251.html
アクラシュの最後の鞘 タバー・ヴァンキド 著 第三紀407年、暑い夏の日、ベールで顔を覆った若くて美しいダンマーの女性が、テアのとある鍛冶屋の親方のところへ足しげく通っていた。地元の住民は彼女の顔を一度も見たことはなかったが、彼女の姿かたちや身のこなし方からきっと若くて美しい女性に違いないと思っていた。彼女と鍛冶屋の親方はお店の裏に引っ込み、店を閉め、数時間の間、弟子たちを帰らせた。昼下がりには、彼女は店から去っていき、また翌日同じ時間に現れるのだった。当然のごとくいろんなゴシップが飛び交ったが、それはとるに足らないもので、たとえばその年取った親方がそのような美しく魅力的な体型の女性とやることとは…… といったがさつな冗談ばかりであった。数週間後にはその定例訪問もなくなり、ティアのスラム街の生活も元に戻っていったのであった。 訪問が止んで1─2ヶ月のこと、近所の酒場にて酒をしこたま飲んだような1人の若い仕立屋がその鍛冶屋に聞いてきた。「それであのおトモダチとはどうしてるんだ? 振っちまったのかい?」 鍛冶屋はその手の噂話が流れていることは知っていたので「彼女は素敵な女性だよ。2人の間には何もなかったよ。ましてや相手は私だ」と答えた。 「それじゃ毎日彼女は何しにきてたわけ?」と、居酒屋の娘はなんとかこの話を広げようとして聞いてきた。 「そうだな」と鍛冶屋は答えた「武具の作り方を教えていたんだ」 「そんなはずないだろう」と言って、仕立屋は笑った。 「彼女はただ私の芸術的な部分に特別惹かれただけさ」と鍛冶屋はちょっとした誇りをちらつかせ、今はなき幻想をなつかしむように言った。「私は彼女に剣の修繕方法を教えたのだ。それもありとあらゆる、刃のこぼれや破損、細い亀裂、割れた柄頭、刀の鍔の片側、柄の部分など、具体的にだ。最初は彼女もまったくの素人で刃物の中子で柄を固定するやり方さえ知らなかったよ。もちろん始めた頃はまったくの手探り状態さ。まあ、それも当然だが。しかし自分の手が汚れることなんか全然気にもしていなかったさ。立派な刃物についてるような小さな金銀の細工の継ぎ合わせ方まで教えたよ。神が神々しい金敷から引っ張り出したかのような、鏡のような光沢を出させる磨き方もね」 居酒屋の娘と仕立屋は大声で笑った。鍛冶屋が何を言ったとしても、鍛冶屋が話すその若い女性の訓練の様子は、遠い過去の悲恋のように聞こえた。 居酒屋にいた地元の人々の多くが鍛冶屋の感傷的な物語を聞いていたが、話題はもっと重要な噂話へと移った。街の中心で上から下まで一気に内臓をえぐられた奴隷商の殺人の話だ。この2週間で6体の死体が発見された。この犯人を「解放者」と呼ぶものもいたが、この街では奴隷商に対する恨みはさほど強くはなかった。どちらかといえば、初期の犯罪の手口が頭を切り落とす手口だったため、「切断者」と呼ばれるほうが多かった。シンプルに体に穴を開けられたり、切り刻まれたり、内臓をえぐられたりといった、そのほかの手口はもあったのだが。 熱狂的なよた者たちが次の犠牲者の殺され方で賭けをする一方で、今のところ生き残った奴隷商たちの多くは、その土地の領主であるセルジョ・ドレス・ミネガウアのところに集まっていた。ミネガウアはドレス家のケチな用心棒であったが、奴隷商仲間の主要メンバーであった。もうすでに彼は落ち目になっていたが、皆は彼の元へ知恵を拝借しに集まったのである。 「我々はこの『切断者』と呼ばれるものがどんな人物であるのか、しかるべき調査にふみこまなければならない」ミネガウアは贅沢に作られた暖炉の前に座りこう言った。「犯人が奴隷制と奴隷商に対して理由のない憎しみを抱いているのは確かである。それに、剣の名手でもある。犯人は我々の背後からそっと忍び寄り、十分な警戒態勢をしいている我々の住居に侵入してくる。私にはどうも犯人は外部の人間としか思えない。実際、モロウウィンドの住人が我々に対してこんな攻撃はしてこまい」 奴隷商たちはみな、この意見に頷いた。このようなトラブルは外部の人間が決まって起こすもので、それはいつも当たっていた。 「わしがあと50歳若ければ暖炉に飾ってあるアクラシュの剣をつかんで出て行くのに」と言ってミネガウアはそのキラキラと輝かんばかりの武器を大きな動きをもって指差した。「そしてお前たちとともに犯人探しへ向うのだが。居酒屋にギルド本部にと犯人の居所を探し回り、この手で首を切り落としてやろうぞ」 奴隷商たちは慎ましやかに笑った。 ソロン・ジェレスという1人の若いおべっかつかいの男が、「あなたのその剣を我々にお貸しいただけませんか?」と熱い口調で頼んだ。 「アクラシュの剣の使い心地はさぞよいものであろう」とミネガウアは息をついた。「だが、わしが引退するときに二度と使わないと誓ったのだ」 ミネガウアは娘を呼び、奴隷商たちにフリンを持ってくるように言うと、みなが必要ないと断った。その日の晩に「切断者」を捕まえにいくというのに酔っていては困るからだ。高い酒を断るほどの彼らの熱意の強さに、ミネガウアは心が打たれた。 最後の奴隷商が帰っていくと、ミネガウアは娘の頭にキスをし、アクラシュの剣に尊敬の念を込めた視線を送りベッドへふらふらと歩いていった。ミネガウアがベッドに入るやいなや、娘ペリアは暖炉に飾られた剣を持ち出し、家の裏手を飛ぶように横切っていった。カザフが馬小屋でじっと彼女の来るのを待っていた。 カザフは物陰から彼女の前に飛び出ると力強く彼女を抱きしめ、長く甘いキスをした。彼女が寄り添うまま、彼は彼女を抱きしめていたが、ようやくペリアは身を離し、彼に持っていた剣を手渡した。彼は刃をかざしてみせた。 「どんなに優秀なカジートの鍛冶屋でもこの鋭さは作り出せないだろう」と、カザフは誇らしげに恋人を見つめながら言った。「昨晩だってうまく殺ってみせた」 「その通りよ。鉄の銅よろいの上から切り込まなきゃいけなかったしね」と、ペリアは言った。 「奴隷商たちも今や警戒をしだしている。集まってどんなことを話していた?」 「外部の人間の仕業だと思ってるわ」と言って、彼女は笑った。「よもやカジートの奴隷がこれまで数々の「切断」をやってのける技術を持っているとは思ってないわ」 「君のお父上はまったく疑ってないのか? 彼の大事なアクラシュの剣が今回の事件に一役買っていることを」 「前日とまったく変わらずそこにあると信じて疑ってないわ。あたしが抜け出たことに誰かが気づく前に戻らなければいけないわ。時々、乳母が結婚式の詳細について尋ねてくるの。まるで私になにか選択権があるかのようにね」 「約束するよ」とカザフは真剣な眼差しで言った。「『奴隷取引王朝』を確立させるためだけの政略結婚なんか絶対にさせないよ。このアクラシュの剣の最後の鞘は君の父上の心臓だ。そして父を失った君は奴隷を全員解放し、もっと文明の進んだ州に移動し、そこで君は好きな相手と結婚できる」 「その相手とは誰かしら」とペリアはからかい、馬小屋から走り去った。 夜が明ける前にペリアは起きて庭を這い出し、新緑の蔦の中に隠されたアクラシュの剣を見つけた。刃は比較的、鋭いままだが、表面に垂直の傷がたくさん入っていた。「また1人、首を切り落とされたんだわ」そう思いながら軽石で丁寧に痕跡を消しさり、最後に塩と酢でもってピカピカに磨き上げ、父親が朝食に起きだす前に暖炉の上のもとあった場所へと戻した。 ケミリス・トロム、彼女の夫となる予定であった男の首が胴体から数フィートも離れた州で発見された事件を聞いた時、彼女は別段悲しんでるふりもしなかった。父親は娘が結婚を嫌がっていたことを知っていた。 「なんということだ。あの青年は非常によい奴隷商だったのに。しかしまあ、我が家の良き同胞となるべき若い男はほかにいくらでもいるからな。ソロン・ジェレスなんてどうだ?」 その2日後、ソロン・ジェレスの元へ「切断者」が訪れた。もみ合いはそう長くは続かなかったが、ソロンはちょっとした護身用の武器を持っていた、それは毒性植物の抽出液に浸した1本の針で、たもとに隠し持っていた。致命的な打撃を食らったあと、前面へと倒れこんだその時、カザフのふくらはぎをそのピンで刺した。彼が剣を返しにミネガウアの家に着いたその時、そのまま彼も倒れこんでしまった。 視界がかすむ中、彼はひさしをつたってペリアの部屋へ上り、窓をコツコツと叩いた。しかし、ペリアは答えず、深い眠りへと落ちていた。それもカジートの恋人とのすてきな未来を夢みながら。彼は強く窓をたたいたため、ペリアは眼を覚ましたが、隣の部屋で眠る父親も目を覚ましてしまった。 「カザフ!」と、娘は窓を開けて叫んだ。彼女の隣に立っていたのはミネガウアだった。 彼が見たものは、自分の所有物である奴隷が、自分の所有物である剣を握り、自分の所有物である娘の頭を切り落とさんとしているところだった。突如、ミネガウアに若い力がみなぎり、息絶え絶えのカジートに近寄り、手から剣を奪った。娘が止めるよりも先に彼は娘の恋人の心臓を突き刺した。 一旦落ち着きを取り戻すと、ミネガウアは剣をその場に落とし、衛兵を呼ぶためにドアへと向かった。ふと彼の頭に、娘はケガはしてないまでも治癒師が必要だ、という考えがよぎった。ミネガウアは娘の方へ振り返った。しばらく、何が何だかわからなかった。強烈な一撃を受けた感じがしたのだが、それが剣だとは思わなかった。まず血を見て、次に痛みに気づいた。自分の娘がアクラシュの剣で自分を突き刺したのだと気づく前に彼は死んでしまった。剣はようやく、おさまるべき最後の鞘を無事見つけたのであった。 一週間後、公式な調査を終え、ガウシュの遺体は邸宅内の敷地に無縁仏として埋葬された。セルジョ・ドレス・ミネガウアの墓は歴代の家族の墓と肩を並べるよう、壮大な霊廟の一角に埋葬された。野蛮な「切断者」として次々と商売仲間を殺していくという裏の一面を持った貴族の奴隷商の葬式を見に、多くの見物人が集まった。式場内は厳粛な静けさが漂ってはいたが、誰もがその奴隷商の人生の最後の場面を想像した。奴隷商は乱心に駆り立てられ、自分の娘を手にかけようしたが、幸か不幸か忠実なる奴隷に止められ、持っていた剣で自分を刺してしまった。 見物人の中にはあの年老いた鍛冶屋もおり、彼はベールで顔を隠したあの若い女性の姿を見た。それが彼女がこの街を去る前の最後の姿であった。 小説・物語 茶4